身体の肢位には様々な種類があります。
その肢位のひとつに、「腹臥位」があります。
腹臥位はリスクが高い肢位と言われていますが、対象者によっては非常に有効な肢位でもあります。
腹臥位とは?
「腹臥位(ふくがい・Prone position)」とは、顔や腹部などを下側に向けて寝ている状態のことを言います。
いわゆる「うつ伏せ」です。
一般的には、高齢者や身体が不自由な方に腹臥位で寝てもらうことはほとんどありません。
なぜなら腹臥位を安全に行うにはそれなりに介助量が増えますし、体位変換時の骨折や臥床時の窒息などの事故が起こりやすいからです。
しかしこの腹臥位を安全に行うことが出来れば、非常に有効な肢位へとなりうる場合があります。
腹臥位が有効な対象者は?
腹臥位は呼吸機能改善に有効であることがわかりますが、呼吸器疾患の方全てに有効な肢位ではありません。
本法が有効な病態は,肺水腫・肺炎・ARDSなどで障害部位が背側肺に限局して分布するいわゆる背側肺障害を有する場合である。
出典元:腹臥位呼吸療法|日本救急医学会
その他には、体幹や股関節が固いパーキンソン病などにも有効であることが多く報告されています。
腹臥位が有効とされている対象者をまとめると、
- 肺水腫・肺炎・ARDSなどで背側肺障害を有する
- パーキンソン病など
腹臥位で得られる治療効果とは?
腹臥位になることで何らかの治療効果を得ることを「腹臥位療法」と言います。
腹臥位療法は、呼吸機能の改善に有効であることが多く報告されています。
腹臥位呼吸療法の効果機序は,背側障害肺に多く分布した血流が健常肺へ再分配され換気血流比が改善すること,closing volumeの減少,横隔膜運動の変化,心臓により圧排される左肺下葉換気の改善,体位ドレナージによる気道分泌物の排出の改善などである。
出典元:腹臥位呼吸療法|日本救急医学会
その他にも、腹臥位にて自重(自身の体重)を利用することで体幹や股関節のストレッチ効果やリラクゼーション効果などがあることも報告されています。
腹臥位で得られる治療効果をまとめると、
- 換気血流比の改善
- closing volume(クロージングボリューム)の減少
- 横隔膜運動の変化
- 左肺下葉換気の改善
- 気道分泌物の排出の改善
- 体幹や股関節の可動域の改善
- 筋緊張の緩和など
closing volume(クロージングボリューム)とは、気道閉塞によって肺の中に吐き出せずに残る空気の量のことを言います。
腹臥位のリスクは?
腹臥位は、ケースによっては非常に有効な肢位となります。
しかし、顔を下に向ける肢位であるため、背臥位や側臥位などに比べてリスクが高く扱いにくい肢位でもあります。
腹臥位にすることで酸素化能(PaO2/FiO2)の改善がみられ,ときに酸素化能悪化による危機的状況を脱する治療法となりうるが,気道管理や四肢圧迫による神経損傷の回避などに厳重な注意管理が必要となる。
出典元:腹臥位呼吸療法|日本救急医学会
腹臥位は気道確保が難しく、窒息や気管カニューレの圧迫には特に注意が必要です。
体位変換時に気管カニューレやサーチレーションモニターなどの配線の巻き付きや、ベッド柵へ上下肢をぶつけてしまうなどといったことにも注意しなければなりません。
また普段行う背臥位などとは圧迫箇所が全く異なるため、褥瘡が発生しやすい箇所を理解して長時間の圧迫を避けなければなりません。
腹臥位の褥瘡好発部位は?
腹臥位のときに褥瘡が発生しやすい箇所(褥瘡好発部位)は、下記になります。
- 頬部
- 耳介部
- 肩峰突起部
- 乳房
- 陰部
- 膝関節部
- 趾部
おわりに
腹臥位により治療効果を出すことを腹臥位療法と言われています。
近年腹臥位療法による治療効果は数多く報告されています。
実際に私も腹臥位療法を行ったことがあります。
しかし、リスクも多いため細心の注意が必要です。