高齢者に多い骨折のひとつに大腿骨頸部骨折があります。大腿骨頸部骨折には、手術療法が適用されることが多くあります。
その手術のなかには、人工骨頭置換術や全人工股関節置換術などがあります。
今回は、人工骨頭置換術と全人工股関節置換術の違いを簡単にご紹介していきたいと思います。
はじめに
股関節の痛みや機能障害に対する外科的治療として、人工股関節置換術が広く行われています。
その中でも、人工骨頭置換術(BHA)と全人工股関節置換術(THA)は一般的な手術法ですが、それぞれに明確な違いがあります。
この違いを理解することは、手術の適応やリハビリテーションによる回復までの過程を知る上で重要です。
また、手術後の脱臼リスクや回復過程においても違いがあります。特に脱臼という合併症は、手術後の生活の質に大きく影響を及ぼすため、そのリスクを理解することは重要です。
人工骨頭置換術(BHA)と全人工股関節置換術(THA)の基本
人工骨頭置換術(BHA)と全人工股関節置換術(THA)は、股関節の機能を改善し、患者の生活の質を向上させることを目的とした手術です。
人工骨頭置換術(BHA)とは
人工骨頭置換術(Bipolar Hip Arthroplasty)はその略語からBHAとも呼ばれています。
人工骨頭置換術は、大腿骨の骨頭部分を金属の人工骨に置き換える手術になります。
骨頭の受け皿となる臼蓋部分はそのままで、人工骨に置き換えません。
人工骨頭置換術が対象となるのは、
- 大腿骨頸部内側骨折
- 大腿骨頭壊死症 など
の疾患が多く、臼蓋が健全に残っている必要があります。
人工骨頭置換術は、脱臼しにくいと言われています。
全人工股関節置換術(THA)とは
全人工股関節置換術(Total Hip Arthroplasty)は、その略語からTHAとも呼ばれています。
全人工股関節置換術は、大腿骨の骨頭部分と臼蓋部分を金属の人工骨に置き換える手術になります。
全人工股関節置換術が対象となるのは、
- 関節リウマチ
- 変形性股関節症
- 大腿骨頭壊死症 など
の疾患が多くなります。
全人工股関節置換術は人工骨頭置換術に比べると、手術侵襲が大きくなります。
人工骨頭置換術(BHA)と全人工股関節置換術(THA)の脱臼リスク
脱臼のメカニズム
人工骨頭置換術(BHA)と全人工股関節置換術(THA)の手術後、脱臼のリスクが存在します。脱臼は、無理な動作や急激な方向転換などにより、人工関節の球体がソケットから押し出されることで発生します。
特に、手術により置換される大腿骨の頭が通常より小さくなるため(通常の46-48mmに対して28-32mm程度)、脱臼しやすくなる特徴があります。脱臼を防ぐためには、術後の動作制限を守ることが重要です。
手術アプローチによるリスクの違い
THAとBHAの手術アプローチにより、脱臼リスクが異なります。主な手術アプローチとして、前方アプローチ、側方アプローチ、後方アプローチがあります。前方アプローチは大腿筋膜張筋と縫工筋の間を切開するため、筋肉の切開が少なく、脱臼リスクが比較的少ないです。
側方アプローチも大腿骨の側面からの進入で、脱臼リスクは中程度です。一方、後方アプローチは筋肉を大きく切開するため、脱臼リスクは他のアプローチに比べて高くなります。
手術を受ける際には、医師と相談の上、患者の状態に最適なアプローチを選択することが大切です。
術後の動作制限とリハビリテーション
脱臼を防ぐための日常生活の注意点
術後の脱臼リスクを抑えるためには、日常生活での動作に注意が必要です。特にTHA術後は、股関節の新しい可動域を把握しながら、無理のない範囲で動作を行うことが推奨されます。
日常生活では、椅子から立ち上がる際や階段を昇降するときなどに注意を払い、膝が股関節より高くならない姿勢を意識することが重要です。
畳などの低い位置での生活や、急な動きは避け、特に体をひねる動作は控えるようにしましょう。
リハビリテーションの重要性
リハビリテーションは、THAやBHA術後の回復において非常に重要な役割を果たします。適切なリハビリを行うことで、筋力の回復が促進され、関節の安定性が向上します。
リハビリでは、日常生活動作の訓練が行われ、入浴やトイレ動作、階段昇降など具体的な場面を想定した練習が取り入れられることが一般的です。リハビリは早期から開始され、継続的に行うことで、脱臼のリスクを低減し、長期的な生活の質を向上させることができます。
特に術後3週間を過ぎると、筋力が安定し、脱臼リスクは低下し始めるため、リハビリの効果を更に感じやすくなります。
人工骨頭置換術(BHA)と全人工股関節置換術(THA)の違い:まとめ
人工骨頭置換術(BHA)と全人工股関節置換術(THA)の特徴をまとめて比較すると、違いがわかりやすいです。
・BHAの特徴
- 骨頭の置換
- 臼蓋はそのまま
- 脱臼しにくい
・THAの特徴
- 骨頭と臼蓋の置換
- 脱臼しやすい
- 手術侵襲が大きい
BHAとTHAの違いを簡単に説明すると、臼蓋を置き換えするかしないかがひとつのポイントとなります。
また、人工関節と言えば脱臼にくれぐれも注意する必要がありますが、BHAはTHAに比べて脱臼しにくくなります。
手術侵襲については、公益財団法人日本医療機能評価機構のサイトを参考にしています。
THAのほうが手術侵襲は大きいので,対象患者の全身状態が悪い場合や,期待される余命が短い場合には,人工骨頭置換術を推奨する.
出典元:大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン (改訂第2版)|公益財団法人日本医療機能評価機構(https://minds.jcqhc.or.jp/n/med/4/med0016/G0000307/0058)